<佐賀の茶室>
以前ご紹介した茶室の見学の第2弾です。
佐賀市 多布施川沿いにある神野公園内の「隔林亭」という名の茶室です。
佐賀の茶室「隔林亭」
神野公園は元は神野の御茶屋といって佐賀10代藩主鍋島閑叟公(直正)の別邸として佐賀城下北西のはずれにつくられたものです。
園内には「無限青山亭」と言われる質素な邸宅もあります。
公園のほぼ中央に大きな池があり、その中に中島があり、その島の中に池に突きだすように建っています。
この池は家臣の水馬の訓練や競技が行われたと伝えられています。
「隔林亭」は平成5年に古地図と写真をもとに再建されたものです。
直正公の別邸だったときは「茶雨庵」と号された茶室でした。
それがなぜ「隔林亭」となったのかは、話が長くなりますので割愛しますが、名の由来は、隔林亭文書(個人蔵)というものに「隔林亭は、茶室の名なり」という記述があり、鍋島家から家臣の中野家へ下賜された際に号されたようです。
写真にはありませんが、手前に数寄屋風の公衆便所があります。
(数寄屋門)
小さな橋を渡ってあられこぼしの踏み石を通るとすぐに杮葺の数寄屋門が見えます。
門をくぐり、飛び石をわたると正面に茶室が見えてきます。
杮葺きの四脚門となっています。
手前の外露地側の石が客石で奥の内露地側の石を亭主石と呼ぶそうです。
(露地)
露地は3重露地となっています。
門をくぐり飛び石づたいに進み正面手前を右に折れると、茶室に向かって腰掛待合があります。
正客は一石、連れ客は畳石としてありました。
また、正客の右側に障子のない下地窓が設けてありました。
腰紙は鳥の子紙の2段張り。
待合を出て内露地の枝折戸を開けて進むと左手に蹲踞があります。
前石から鉢穴までの高さはちょうどいいくらいの高さで4~5寸ほど、左右の石の台は左側の石が少し高かったのでこれが手燭石で右のほうが湯桶石。
とすると表千家の設えでしょうか。
少し進むと左手に躙り口が見えます。
躙り口の上に下地窓があってそこに力竹が添えられていました。
東側の面の三つの窓は全て下地窓となっており、すべてに力竹が添えられていました。
不審庵とよく似た設えです。
東側の池に降りる棚路があります。
舟入もできそうな感じです。
躙り口近くには、瓦を小端立てした塵穴がありツワブキが添えるように植えてありました。
この形ではあまり見ないのぞき石もありました。
少し進むと縁側から建物内に入ることができます。
左側(下地窓のある側)が正客で踏石が一つ、右側は連客で畳石となっています。
下地窓は亭主の迎附の気配を感じるために設けられ障子を付けないと聞いています。
腰張りは、湊紙が使われることが多いようですが、ここは鳥の子紙でした。
手前が内露地との間の枝折戸。
手水鉢や役石の位置や高さに決まりがあります。
ここは筧があり水が出ていました。
下地窓に力竹といわれる補強があります。
意匠的にもアクセントになっています。
不審庵では躙り口の中央下部に力竹の位置に方立があります。
もとはこの位置に太鼓橋があったようです。
右側のフキのところに塵穴があります。
また、土に接する場合は、水が入らないように一寸程度縁を上げる。
お茶事には青竹のちり箸を添え、中に緑の葉を入れる。
(広間席)
飛び石を渡って、縁側から入ってすぐの部屋は四畳半で、北側の池に向かって炉が切ってありました。
床は下座床で織部床となっています。
その部屋の西に続く部屋は、深六畳で上座床となっています。
そこは1間幅の踏み込み床となっていて貼り付け壁でした。
壁はいずれも白漆喰で腰張りはありません。
柱はやや大きめの面皮柱で天井は棹縁の平天井で高さは7尺くらいです。
建物北側は、北西東の3方が池に向かって吹き放された広間で3方に縁が回されています。
その軒裏は数寄屋風ながら現代的で再建に当たってデザインされたものだと思います。
室内には、以前の茶雨庵の写真が飾ってあります。
古い太鼓橋は大きく湾曲していたようです。
写真から見ると今の橋の位置(南側)と違い別荘のある北東側にあったようです。
炉は四畳半切。
北側の障子を開けると縁越しに池が見える。
床脇に棚を設えている。
写真右側の障子を開けると池に面する広間がある。
これも復元すればあと1億円くらいかかる?
(小間席)
四畳半の部屋から左手に行くと茶道口から茶室に入ります。
茶室は平3畳台目の下座床で室内は、明るく開放感がありました。
係りの方の話ではこの小間席は茶雨庵の時代はなかったもので再建の際に付け足されたものとのことでした。
曼殊院の写しと聞いているが違うのではないかとおっしゃっていました。
帰って調べてみたのですが、曼殊院は公家好みと言われており、構成は三畳台目で、茶道口、給仕口、床が一列に並んでいるのが特徴でした。
中柱は桜で少し曲がりがあり壁留は削り木。床柱は斫り目を付けた赤松皮付き。床框は、黒の漆塗りでした。
確かに、この隔林亭は三畳台目で床と給仕口の位置と天井構成は一緒ですが、窓の構成は全く違っていてとてもこの曼殊院の写しとは思われませんでした。
下座床になっているところが決定的に違っており、細部にもいくらかの違いがあるもののおそらく表千家不審庵を模したもの(写しではない)だと思いますがどうでしょうか。
室内は、躙り口の正面に床を設け、その右側に給仕口があり奥が水屋となっています。
躙り口上部とその左横の客座側に少し下げて下地窓。
躙り口と矩折りの位置の腰壁上に引き違いの連子窓となっており、不審庵の鏡写しとなっています。
手前座は左後ろが茶道口で、風炉先に下地窓を開け、二方に腰板を設けてあります。
壁留(横木)は四節の煤竹。(不審庵は三節)二重棚は利休流となっており、仮に曼殊院の写しであれば横木は削り木で、棚は雲雀棚となっていなければなりません。
中柱は曲がりのないこぶしの皮付きで掛込の壁留に取り付いていました。
天井は、躙り口側が化粧屋根裏で床前は蒲の平天井となっていて手前座に続いています。
炉の上部に釜蛭釘が打ってありましたが、係りの方の話では、小間席で打つことはあまりないそうです。
床は台目幅の畳床。床柱は赤松皮付きで花入釘が打ってあります。
床框は、杉丸太。落掛けは削り木となっています。
腰張りは、亭主側が鳥の子紙の1段貼り、客座側が湊紙の2段張りと定法通り。繊細で茶室らしい雰囲気のある空間でした。
手前に仕付棚が見える手前座、奥に躙り口が見える。
躙り口の正面が床の間。
茶道口奥が見えすぎるので茶席の時は、衝立を置いているのでは?
腰張りは、塗り回し先の隅柱まで鳥の子紙の1段張りとしている。
中柱周囲の畳縁の付け方が間違っていました。係りの方が残念と嘆かれていました。
給仕口の高さは約4尺くらいか。
給仕口のカーブしているところの紙が傷んでいた。
下の段の棚板が、横木から少し下がった位置にきている。
床柱は赤松皮付き床框は杉丸太、落し掛けは削り木。
畳床に花を飾る場合は、地板を用いる。
写真ではわかりにくいが、障子紙は継ぎ張りとなっていて、表千家の張り方のようだが少しずれている。
継ぎ目の幅は、古くは1分から1分5厘と言われていましたが、現代は5厘から1分程度。ここの幅は1部5厘から2分くらいあったので、係の人は広すぎると言っていました。
一般的に中柱のある茶室には釣り窯を掛けないので釜蛭釘は打たない。
釣り窯の自在と中柱が近く縦に重なり、景色が良くないと言われているようです。
(外観)
屋根は、本屋が茅葺で周囲には杮葺きの庇が廻してあります。
小間席の上は切妻の杮葺きで棟は瓦で納めてありました。
妻側の庇は、少し長めで入母屋風です。壁は少し黄色い土壁で壁下は巾木で納めてあります。
窓の連子竹は鴨居と敷居に打ち付けてあり、あえて粗相に見せてあります。
連子の中ほどに振れ止めのためにつなぎ材を入れます。
それをあうち貫というのですが、ここにはありませんでした。
この竹の連子にもいろいろなこだわりがあり「節を揃えないこと」や「さかさ竹に打たないこと」「貫は竹に釘留めないこと」など細かいルールがあるといわれています。
池越しに見えるこのお茶室は、東西は樹木に囲まれ、北側は池に向かって広間が突き出していて、それが三方開放されていて気持ちのいい空間が見えます。屋根のかやぶきがとても美しく何かほっとする佇まいです。
連子窓が見えますが、中間に貫を入れていません。
巻頭釘で留附けています。「隔林亭」の扁額が見えます。
係りの方に聞いたのですが忘れてしまいました。
(あとがき)
この茶室は、市が市制100周年記念事業としてふるさと創生一億円事業で造られたものです。
係の人の話では、当時佐賀県文化連盟にその事業候補の打診があり当時の理事長だった高取綾さん(高取伊好のお孫さん:佐賀の炭鉱王)の発案により再建されたものと聞いています。(能舞台と茶室と候補があったようです。平成元年だとまだ能舞台のあった佐賀城が再建されていないときでした)
現在、見学は無料で開放されています。
施設では呈茶も提供されています。(干菓子付き有料です)
ただし、催事については有料とのことでした。
施設はいつ行っても、床には掛け軸が掛けられ、お花が飾ってあります。
また、掃除が行き届いていて手入れがとても良くされています。
係りの方が一所懸命維持されているようです。
市街地の近くにある公園内にあり気軽に行けるお茶室として皆様にもっと知っていただければいいなと思っています。
如何だったでしょうか。
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ご自身で茶室を持つことで初めて自分の茶観が見えてくるものと聞いています。
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おわり