家造りで思うこと
日本の気候風土にあわせる
最近の家は、庇(ひさし)の少ないキューブボックスタイプの家が多い。デザイン的にはシンプルで、カッコよくはあるが、庇のないことで、傷み、汚れといった部分はどうであろうか。日本のような多雨多湿の気候風土の国、ましてや、昨今の豪雨、長雨といった異常気象の中で、庇のない家は、外壁に直接、雨風が当たってしまう。大気中の汚れを含んだ雨による変色、カビやコケなど、せっかく出来上がったピカピカのきれいな家も、わずか数年で輝きを失い、少しくすんだ感じとなる。
やはり、家というものは、建てる場所の自然環境を知り、その場所にあった家造りをすることが肝要だと思う。
自然を感じる
また最近は、気密性・断熱性に優れた住宅が非常に増えてきている。冷暖房の効率化、熱エネルギーの省力化という点からいえば、当然の流れであろう。しかしながら、こうした流れの中にあっても、常に、生活の一部に自然を感じられることは大事ではないだろうか。それは、木々の緑が目に入ってきたり、風にそよぐ樹木の葉音、花木の香りをも感じられたりするような間取りやちょっとした仕掛けを取り入れることで可能だ。
「この家の中に居ながらにして、四季の変化や光と影といった自然を感じられる生活…窓から差し込む朝日が、一日のスタートの活力だ。」「今、心地よい風はどちらから吹いているだろうか」そんなことを思うありふれた日常に、この上ない幸せがあるような気がする。
素材を生かす
素材は大事である。どこに、どんな材料を使うかで建物の見栄えのみならず、耐久性、安全性が大きく左右される。 木や土や紙といった素材は、自然のものであるので、そこで生活する人間の体には優しい。また最後には自然に還っていくので環境にも優しい。鉄やコンクリートといった素材は、自然に還ることはないが、強固であり、災害の多い自然環境においては安心である。要は、そこで生活する人の要望を取り入れ、目的に適った素材を使うことが、長く快適に住み続けることにつながるだろう。
私は、人が住むところは、できるだけ自然の素材を使いたいと思っている。できれば、地域で手に入るものを。木や土壁、紙の障子や壁紙などで造られた部屋に入ると、木の香りがし、何か清澄な空気の中にいるようでとても気持ちよく感じられる。化学物質などがなく健康にもいい環境なのだと思う。また、外部の仕上げ材についても、時間の経過でゆっくり変化していく様子は、ある意味で美しく年を取ってゆくエイジングであり、その家の歴史を創り出すものではないだろうか。それは、メンテナンスがあまり要らないといわれている最近の外装材では決して得られないものだと思う。
敬愛する造園家の言葉が今でも心に残っている。
「『家庭』いう言葉は、『家』と『庭』の両方が揃って成り立つ。『家』だけ立派に建ててもダメ、『庭』にも力を入れてください。 そうしたらきっとよい家庭が築けますよ。」と教えてくれた。
確かに、自然は人間にいろいろなことを語りかけ、心を豊かに育んでくれるものではないだろうか。
光と影、風、木や草花といった自然(外)をうまく取り込み、安心で快適な家(内)を築く、外と内を遮断せず、つながりを大事にする。これは、今では私の家づくりの基本である。